消費エネルギーが多いのは本が厚いせいだけじゃなくて、町田康「宿屋めぐり」。

町田さんの小説読んでると「もおおおおーーーお!」となって読み進められなくなることがあります。「パンク侍」は視点がいっぱいあったのでガンガン読めたのですが、「告白」とかこれはもう結構な頻度で途中休憩が入りました。
だって、どう転んでも、主人公がいい方向にいかないんだもの。まあ、確かに環境も劣悪ですよ。最悪の種は自分にばっかりあるわけじゃないのも分かりますよ。でも、選択が悉く悪い方に行くんだもの。それも、たまには「善をなそう」として失敗して、の時もあるけど、大概は調子に乗ってとんでもないことになるんですもの。「よし、ここで心機一転!」みたいなタイミングでも、なんでか分からんけどずるずるしてるうちに元の木阿弥になっちゃうんですもの。そんでもう愚にもつかん言い訳やら正当化やらには弁が立つんですもの。なのに、困ったことにそんなどうしようもない主人公のことを嫌いになれないんですもの。だからもう「もおおおおーーーお!」となって本を放り出して心が落ち着いてその最悪な状況が飲みこめるまでしばらく読めなくなってしまう。
なんで嫌いになれないんでしょうね。結構最低なんですけどね。自分が強い立場の時は好き放題するくせに、弱い立場になって強い奴に威張られたらそいつのこと極悪みたいに言うし、欲望には忠実すぎるぐらい忠実だし、面倒くさいことは極力避けて通ろうとするし。でも、最低だってことは分かっているし、最低だらけの中で嘘みたいな綺麗事吐いて世の中を騙くらかしてる奴にだけはならないでおこう、としている。意志も力も弱っちいから大体負けるけど。そういうとこですかね。
しかし、世の中的には綺麗事の方がまかり通っちゃうのでまたもう堂々巡り。そんな世の中は白いくにょくにょの中の「嘘の世界」だし、自分はまっとうなはず、と旅を続ける鋤名彦名ですが、周りからは完全にきちがいの極悪人にされちゃってるわけですね。
「告白」でも思ったんですが、「狂ってる」って何なんでしょうね。主人公はただただまっとうに生きようとしてるだけなのに、事実だけみるとどう考えても狂ってるとしか思えないことをしてしまってる。彦名なんか街半分破壊してるし。でも、本人は、この嘘の世界が狂ってる、と思って元の世界に戻る旅を続ける。でも「嘘の世界」が嘘であるとも限らない訳で、もし、「嘘の世界」が本当だった場合、彦名は自分のことをどう定義づけるんでしょうか。本当に狂ってしまうんでしょうか。
それにしても、「主」は何者なんでしょう?神だとしたら、それに仕えてた彦名は「元の世界」では結構な身分ですよね。もしかしたら「嘘の世界」の国造りをするスクナヒコナなのか?とか思ってしまう。実際は街爆破して壊してるんだけどね。しかし、最後で、彦名の「己」は「記憶」に過ぎず、体という「紙切れ」に主が書き込んでるだけだ、と言っていますが、それってなんかパソコンのメモリみたいで恐ろしい。鋤名は何かのプログラムだった、とか、そういうオチだったらどうしよう。そんな陳腐な話な訳ないよな、こんなにも人間の話なのに。