「フィクション」じゃなくて「ものすごい嘘」と呼びたいです、古川日出男「沈黙/アビシニアン」。

なんか読み切るのにえらく時間かかりました。「沈黙」は早かったんだけどね、「アビシニアン」の最終章に入ってからなかなか進まなくなって。
この二つだったら「沈黙」の方が好きですね。古川さんのお話は、圧倒的な嘘を圧倒的なリアリティで読ませてくれる所が好きです。「13」とか。これを勝手に壮大系古川さんと呼んでいます。「LOVE」も好きだけど、あれは勝手にスピード系古川さんと呼んでいます。「ベルカ」は壮大かつスピード系古川さん。
「沈黙」のルコの歴史のところがすごく面白い。そしてその嘘の歴史が本当になり、ルコが薫子の中で蘇るところ。でも最後はすごく切ないですね。血をたどって音楽にたどりついたのに、今現在血を分けた弟は悪という別の歴史を辿ってしまい、「姉と弟」ではなく「音楽と悪」として対峙しなくてはいけなくなってしまうなんて。そして悲しい方法でその両方を飲み込まなくてはいけなくなるなんて。
ただ、古川さんの東京パートは、みんなクレバー過ぎて申し訳ない気分になる。で、あまりに非現実的に難しい言葉とか使われると「今の東京にそんな人がいるのだろうか…」とせっかくのリアリティについ疑念を差し挟んでしまう狭い心かつノットクレバーな私。故に「アビシニアン」は途中で停滞してしまったんだろう。「LOVE」とか「中国行きのスロウ・ボートRMX」なんかはそのクレバーっぷりとスピード感がいいバランスだったんだけど、「アビシニアン」はテンポがゆっくりだったから、というのもあるかも。最初の猫のサンクチュアリの部分は好きなんですけどね。
まだ読んでない古川さんの文庫では、「アラビアの夜の種族」が控えています。これは壮大系、なはず。しかも3冊。楽しみすぎです。