でっかくなれん男のもがき様、いのうえ歌舞伎☆號「IZO」。

UターンでシアターBRAVA!。2階席はやっぱちょっと遠い…そしてバミリが見える見える賑やかな舞台。
「人切り以蔵」こと岡田以蔵のお話。この人は「人切り」「剣の達人」という、触るものみな傷つけんばかりの狂人的な孤高の剣士、というイメージが強かったりするのですが、今回の以蔵は非常に人間くさい。大きな視野とか何もない、剣と武市先生しかない。(ちゃんと読んでませんが、「おーい!竜馬」の以蔵も割とこんなイメージでしたっけ?)「剣のみに生きる」のではなく「剣以外に生きる道を持てない」男。「天下を変える」なんて大きな口を叩きながら、目的はただ武市に認められたいだけ。幕末、「日本の夜明けは近いぜよ!」とか言ってる男たちのそばで、噛ませ犬、捨て駒、陰ではそんな言葉で笑われながら、人を切ることで必死に彼らに近づこうとして、最期まで近づけなかった。いつまでたっても大きくなれない、むしろどんどん擦り減っていく以蔵を見ているのが非常に切ない。
でも、結局は以蔵も武市も一緒、自分にとっての「天」が正しいことだけを信じて行動してきて、最期は天に裏切られる。そのことを看破したのが武市じゃなくて以蔵だったのが、せめてもの救いでした。
以蔵を演じた森田剛君、その小柄さ、声のしゃがれっぷり(お疲れだったのですね…)、普段なら全く魅力を感じないところなんですが、箍の外れた情けない男の雰囲気が出ていて、以蔵さんにはなかなかはまっておりました。そしてヒロイン役の戸田恵梨香ちゃん、かわいい!そして上手い!いーなあ、一気に好き度アップ。おきゃんで純情、でも現実見据えて地に足ついた女の子が自然で素敵でしたよ。西岡徳馬さんの、太っ腹なようで日和見山内容堂や、かっこいいようで実は一番かっこ悪いんでないか、な武市半平太役の田辺「紫のバラ」誠一先生もよろしゅうございました。しかし粟根さんは悪い役からいい役まで何やってもハマるなあ。ずるい。